NEXTAcutivate→ 今回は公益社団法人日本鍼灸師会の決算書について。
鍼灸マッサージ業界には公益法人がいくつか存在する。その中でも今回は公益社団法人日本鍼灸師会はまちがいなく歴史ある団体として鍼灸業界を牽引してきた団体について切り込んでいく。
- 義務ではないものの、同様の鍼灸系の公益法人がHP上で公開している財産目録に関して、公益社団法人日本鍼灸師会は会員専用ページのみでの公開しかしていない現状が明らかとなった。
- これら財産目録に関して、公益社団法人日本鍼灸師会に所属する一部下部組織はHP上で公開しているのにも関わらず、上部組織はHP上で公開していなかった。
- 財産目録の請求にあたり“公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律”の当該部分を指摘し請求方法の確認をしたものの、事務局側で内閣府に確認して初めて公開に至った。
- 業界全体で改めて公益の意味を考え直す必要がある。
公益社団法人とは何か
そもそも公益社団法人とは平成18年12月1日に施行された”公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律”に基づいて設立された団体である。
設立には様々な条件があり
第二条 4
公益目的事業 学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものをいう。
公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 電子政府の総合窓口e-Gov
と法律において目的が定められている団体である。
要するに「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与する」団体が公益社団法人であり、個人の利益や特定の団体の利益や利権を追い求めてはいけないのである。
問題発覚までの経緯
一般的に各社・各企業HPにおいては事業報告や事業計画のようなページを設け、その中で年度ごとの事業報告書や貸借対照表などいわゆる財産目録に関して掲載している。
しかしながら日本鍼灸師会のHPにはそのような項目は見受けられなかった。
日本鍼灸師会は各都道府県のまとめ団体のような立ち位置である。
各都道府県鍼灸師会の公益活動予定や活動報告等を公表はしているもののいずれも日本鍼灸師会としての財務目録等を記載しているものではなかった。
HPに掲載されているのが見当たらなかったため電話にて問い合わせた。
-HP上に記載がないのはなぜか?
事務局「HP上の会員限定ページでは公開しているものの一般には公開しているものではない」
-自身が支払うお金がどのように使われていくのかを確認するために、入会してお金を支払わないといけないのは大変おかしい話ではないか?
事務局「知り合いに会員がいればその人に見せてもらえばいい」
-入会にあたり、貸借対照表や財務目録等を確認する必要があるのではないか?
事務局「確認するには会員になってもらうしかない」
-公益社団法人にはこれらを公開する義務はあるのでは無いか?
事務局「それは事務局では分からない」
これら数点のやりとりで最初の連絡を終えた。
そもそも知り合いに会員がいれば閲覧できる情報なのであれば、最初から一般的にも公開するべきではないだろうか。
問題点はどこにあるのか
公益社団法人は法律で以下のように定められている。
第二十一条
公益法人は、毎事業年度開始の日の前日までに(公益認定を受けた日の属する事業年度にあっては、当該公益認定を受けた後遅滞なく)、内閣府令で定めるところにより、当該事業年度の事業計画書、収支予算書その他の内閣府令で定める書類を作成し、当該事業年度の末日までの間、当該書類をその主たる事務所に、その写しをその従たる事務所に備え置かなければならない。
公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 電子政府の総合窓口e-Gov
この第二十一条に加えて第四項では以下の文章が明記されている。
第二十一条 4
何人も、公益法人の業務時間内は、いつでも、第一項に規定する書類、第二項各号に掲げる書類、定款、社員名簿及び一般社団・財団法人法第百二十九条第一項(一般社団・財団法人法第百九十九条において準用する場合を含む。)に規定する計算書類等(以下「財産目録等」という。)について、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該公益法人は、正当な理由がないのにこれを拒んではならない。
一 財産目録等が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧の請求二 財産目録等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を内閣府令で定める方法により表示したものの閲覧の請求
公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 電子政府の総合窓口e-Gov
注目すべき点は
“何人も、公益法人の業務時間内は、いつでも、第一項に規定する書類、第二項各号に掲げる書類、定款、社員名簿及び一般社団・財団法人法第百二十九条第一項(一般社団・財団法人法第百九十九条において準用する場合を含む。)に規定する計算書類等(以下「財産目録等」という。)について、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該公益法人は、正当な理由がないのにこれを拒んではならない。”
“当該公益法人は、正当な理由がないのにこれを拒んではならない。”
の文章である。
要するに公益社団法人の営業時間内は”誰でも(鍼灸師問わない)”第一項、第二項に記載されている書類を請求でき、また正当な理由がないのにこれらを拒んではいけないわけである。
この時点で業務時間内における請求の電話に対して、”会員になる”か”会員から見せてもらうか”という理由から断っている事となる。
会員にしようとしているのも驚きではあるが。
これらが正当な理由となるのかというと、法律から見比べても懐疑的であるのは明らかであり、公益社団法人日本鍼灸師会は法律を十分に理解していない可能性が示唆されたわけである。
再度問い合わせ
上記のことを含めて、請求したいと再度事務局に連絡をしたものの今すぐには出来ないという回答が帰ってきた。
もちろん書類等を準備するのに時間がかかるのは十分理解していたので情報開示請求方法等について、紙ベースの場合と電子記録ベースの場合それぞれについてどのような手順を追えばいいかを確認した。すると、事務局では判断できないため確認するための時間が欲しいとのことだった。
判断も何も法律で決まっていると伝え即座に内閣府に確認し、結果を伝えてくれと伝え2回目の問い合わせは終わった。
その後の折り返しの連絡で事務局側は内閣府にも確認したそうで、来週中までにHP上に見れるように情報の開示をするとの連絡があった。
(問い合わせが1月31日、本記事を執筆しているのが2020年2月2日であるため2月の2週目になるのではないだろうか)
公益の意味を考え直すべき
日本鍼灸師会は各都道府県まとめ役の立場であるのにも関わらずこの対応というのは決して真っ当な対応ではないのは事実である。
法律の制定が平成18年であり日本鍼灸師会が公益社団法人に移行したのは平成22年であるため、これまでの期間において、同様の対応を行ってきたとするのであれば不利益を被った可能性のある人は多くいる可能性も考えられる。
更には日本鍼灸師会に加盟する一部の都道府県鍼灸師会※1,2,3 では財産目録をHPに記載しているのだから、なおさらまとめ役として本当に機能しているのかより一層懐疑的になるのではないだろうか。
※1 一社を除く。
※2 公益社団法人でもある群馬、石川、山梨、大阪、愛媛、福岡の鍼灸師会についてはHP上で確認できず。
※3 公益社団法人京都府鍼灸師会では平成25年度以降確認できず。
会員においてはもちろん、これから会員になろうとする人にとって、財産目録は参加を決める重要な要素になるのは間違い無いだろう。なぜなら自分が公益社団法人に参加した時に、自分の支払うお金がどのような形で国民に還元されているのか、どのような形で利用されているのか、使用方法は真っ当なのかどうか等を知りたいのは当然ではないだろうか。
なぜ明らかにしなかったのか
実際は全日本鍼灸師会は会員ページに財産目録を公開していたにも関わらずなぜ素直に明らかにしなかったのだろうか。
電話での対応等のやりとりを通してとても感じたのが”面倒であること”である。
最初は「会員になってくれれば会員ページIDを発行して自身でアクセスすれば済む話」から「既に会員の人から見せてもらえ」というアクセスページ自体を変えるという段階を越えない事から純粋に面倒であることを感じ取った。
結果的にはHPの構造自体を変え、一般が閲覧できるページにする(内部的にはわからないが)というところに落ち着いたが、ITが発達した現代においてこのような部分を面倒と思っていては話にならない。
会員数が少ないなどの色々な声をあちこちで聞く。時代は移り変わりどんどん新しい世の中になっている中で既存の形で変わらないまま、中身がこのような形であれば、信用性を無くし近寄ろうとする人は少なくなるだろう。
今回の件を踏まえて時代が合わせるのではなくニーズに合わせて自分たちが変えて行く事がとても重要であることを感じてもらえたら嬉しい。本来医療者であればできて当然とも言える根幹の部分であるはずなのになぜ組織になった際に出来なくなるのかは永遠の謎である。
改めて公益社団法人を名乗る鍼灸団体は、本当の公益はどこにあるのかを考える必要があるだろう。
真っ当な形で公益性を示し不特定かつ多数の者の利益の増進へ繋げてもらいたい。
その他
NEXTAcutivate→について
鍼灸業界(Acupuncture)の次なるアクティベーションを目指すシリーズ連載。
様々な業界の諸問題に切り込んでいく。
NEXTAcutivate→シリーズ過去の連載はこちらから
コメント