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【3.0】COVID-19を乗り越える鍼灸サバイブ術【NEXTAcutivate→】

NEXTAcutivate→第3回目は未曾有の事態を乗り越える鍼灸サバイブ術という視点で取材をさせて頂いた。
東京都の自粛呼びかけの際に早い段階で店舗一斉休業という判断を下した一方、同業鍼灸師のために家賃減額交渉の雛形を配布したりしている、カリスタ株式会社代表取締役の前田真也氏に取材をさせて頂いた。

※本記事は2020年5月27日時点での取材記事であり、また取材に関しては対面でなくビデオ通話を用いて行った。

今回のポイント
  • 3月の休業判断は全体で足並みを揃えるという必要があると判断したから。
  • 家賃減額交渉は鍼灸業界全体を下から支えて行きたいという思いの一つの表れである。
  • 使命感を持った社員に支えられた2ヶ月間であった。
  • 鍼灸師が得意とする分野を改めて認識し強調していく事が重要である。
  • 直面したからこそのデジタルの重要性を再認識した。
目次

業界に衝撃を与えたツイート

当時はロックダウンという言葉が注目されており、多くの鍼灸師がどのようにCOVID-19と付き合っていくべきかを見つめ直さなければならないと、誰しもが再認識する最中、このような投稿がタイムライン上に並んだ。

前田氏のTwitterより
プロフィール

前田 真也(まえだ しんや)
都内を中⼼に”⼥性限定鍼灸サロンCALISTA”や”リフト アップ美容鍼C by CALISTA”などの美容鍼灸ブランドを 展開するカリスタ株式会社の代表取締役。またネット事業部として、鍼灸院専用ネット予約システム”しんきゅう予約”および、 患者様のための鍼灸院検索サイト”し んきゅうコンパス”も⼿がけている。
Twitter:@midnight2121

教科書には乗ってないサバイブ術

-よろしくお願い致します。
また現在進行形で色々な対応の中、お時間頂きましてありがとうございます。
前田氏「こちらこそありがとうございます。よろしくお願い致します。」

-限られた中ではありますが、沢山お話を伺えればと思います。
早速ですが3⽉時点の⾃粛(緊急事態宣言が出される前)の呼びかけがあった際、かなりのスピード感を持って治療院の休業判断をされたかと思います。
当時はどのような心境で判断をされたのでしょうか?
前田氏「元々は営業をするつもりでした。しかし社内で話し合いを続けていく中で、東京都が自粛を要請し、皆さんお願いしますという流れがある中で⾜並みを揃えることが重要なのでは ないかとの結論に⾄りました。」

前田氏のTwitterより

-休業判断をする中で、営業しましょうという声はあがりましたか?
前田氏「正直めちゃくちゃありました。
弊社はネット事業部とサロン事業部に別れているのですが、店舗営業に関してはサロン事業部マターで話が進んでいきます。その中での話し合いにおいて”お客様(※1)が来院したくても来ることができない状況を自分達で作るのはどうなのか”とか”そもそも不要不急とはなにか”のような話し合いが行われる中で、レピュテーション(いわゆる対外的な見えかた)も気にしつつ、総合的に休業という判断を下しました。」

※1,カリスタ株式会社では、患者様はお客様とお呼びするとのこと。本記事ではカリスタ株式会社様に倣い、以降はお客様と表記します。

-やはり最終判断は前田さんがGOサインを?
前田氏「そうですね。
“まじ休むんですか!?”、”どうしよう!?”という雰囲気でしたが、その時点では外に出ることがリスクであったのも考慮し”この二日間は休む”とGOサインを出しました。」

-休業判断をした際、お客様の理解は得られましたか?
前田氏「全て報告を受けているわけではありませんが聞いている限りは”まぁそうですよね”と理解を得られていました。」

-そのような中、家賃減額交渉について業界内で情報共有されたかと思うのですが、最初のきっかけはなんだったのでしょうか?
前⽥⽒「鍼灸院経営では、⼈件費・家賃・広告費が3⼤コストになることが多いと思います。そして、 人件費は雇用調整助成金で賄い、広告費は全面ストップすればなんとか対応できる。 しかし、家賃だけは経営的に大きなインパクトを残していました。 そこで、大家さんにご相談させていただけないものかと考えたのが最初です。 その後、社内で動いていく中で、不動産会社さんから要望を書⾯で提出するよう、ご指示いただきました。提出書⾯を作成する中で、これは他の院の先生たちにも、ご参考になるかもしれないと思ったのがきっかけです。」

-事例や情報を共有することで同じ鍼灸業界で飲食のように潰れたりというのを防ぐという意味合いもあったりしたのでしょうか?
前⽥⽒「あくまで主観ですが、当社事例を共有した段階では、鍼灸は飲⾷業界のような危機的状態ではなかったと思います。とはいえ打撃はあるだろうというのと、ネット事業部で運営しているしんきゅうコンパス・しんきゅう予約は、鍼灸業界全体を⽀えていきたいという思いがあるため、サービスを利⽤していようがいまいが、 院の先⽣達の⼒になれればと考えました。」

-家賃減額交渉に関してはネット事業部が主体となって動いていたという事でしょうか?
前田氏「サロン事業部として動いた内容をネット事業部として発信して皆さんに知ってもらう機会を使ったという感じですかね。
家賃減額に関して、セミナーやフォーマットでも強調したのは、 ⼤家さんとの信頼関係は、なにより最も重要であるという点です。
当然ながら大家さんも辛い立場なのは重々承知の上で”可能であれば”というお願いベースでお話させて頂くというスタンスが重要なのかなと感じていました。『もし返答がNOだとしても、話を聞いて頂けただけでもとてもありがたいことです』ということも先生たちに再三お伝えさせて頂きました。」

-前提として私達が無理をお願いしてる訳ですもんね。
そんなこんなでいつの間にやら緊急事態宣言が発令されたと思うのですが、その直後の営業判断はどうされたのでしょうか?
前田氏「緊急事態宣言が発令され、2週間弱は休業判断をしました。その後、鍼灸院は社会生活を維持するうえで必要な施設として数えられたのも踏まえ4/20より営業再開をしました。」

編集部が別に入手したメールのスクリーンショット
4月8日 10:30時点で全日本鍼灸マッサージ師会事務局から会員にのみ通達された

-この2週間の休業判断は、3月時点同様に営業継続に関しての声は上がったのでしょうか?
前田氏「以前同様の判断をしている事や、今開いてもお客様は来たくても来れない、電車に乗る可能性もあるよねという事で、すんなりと各種電話連絡などスムーズ対応へと繋がっていきました。」

-再開時のリスクに関してはどう考えておりましたか?
前田氏「当然ながら感染リスクをゼロには出来ないのですが、その中でできる限り感染症対策を行いました。自分達なりに出来ることをしたのち、来院されたお客様には”本当開けてくれてよかった”と非常にポジティブに受けとめて頂けてよかったです。」

-衛生用具に関しての不足は問題ありませんでしたか?
前田氏「基本的には問題ありませんでした。
社内には在庫管理をするWCM(Working Condition Management Team)があります。各店舗に一人ずつとそれらをまとめるリーダーの8人で構成されているのですが、基本的に各店舗に1人いる担当者が自店舗の在庫等を管理する形にしています。よって基本的に⼗分な在庫は備えていました。 ただ、”消毒が無くなるかもしれない”と感じた際は、 次亜塩素酸⽔を備えたり、社員の伝手で消毒を⼿に⼊れたりと、動きました。その⼀⽅、マスクの在庫は特に問題ありませんでした。」

-営業再開するにあたり社員との信頼関係はどうでしたか?
前田氏「出勤したくなければしなくて良いという社員本人のスタンスに任せる形で、営業時間を短縮し最小限の人数での運営を心がけ、予約が入れば出勤という形にしておりました。LINE公式アカウント(以前のLINE@)を活用しつつ、予約が入った際にどうするかなどのやりとりなどもしておりました。
…とはいえ基本みんな出るスタンスでした。
スタッフ50人いるので細かい部分では人それぞれ違いはあるとは思いますが、責任感…鍼灸師としてお客様の体を癒す事の必要性はリスクを負ってでもやらなければいけない、というのは感じていたのだと思います。
要するに使命感ですかね。」

-会社としてCOVID-19に関する勉強会等も開いたりしたのでしょうか?
前田氏「勉強会というよりかは、店舗内のスタッフ同士のLINEで”これは読もう”のような、やりとりがぐるぐる回っていたみたいです。」

社会的には在宅勤務が進められる中でしたが、鍼灸師のテレワークって想像がつかないのですが、導入はありましたか
前田氏「ネット事業部、それからサポートセンター(本社機能を備えている事業部で、デザイナー等が所属している)は完全にテレワークに移行しました。
鍼灸師のテレワーク移行もたくさんあって、実は弊社は想像している以上にデスクワークがおおいんですよ。現在は物販に力を入れたり、営業再開するにあたってお客様に対して必要な新施術の企画を進めたりしているのですが、在宅勤務の中でZoomを活用し会議を繰り返したりしていましたね。」

-なすべくしてテレワークになったというよりかは、鍼灸師がそもそもデスクワークをしていたのでその場所が変わったというイメージでしょうか?
前田氏「そうですね。
それこそ当社のお客様は、働くOLさん等が多いので、鍼灸施術だけじゃなくデスクワークも自分たちで行って、お身体の不調を実感した方がいいと思っています(笑)。
どうせ家でYouTubeを見ているんだったらやれることをやろう!という事で、今回のコロナをきっかけに多くのチームが発足しました。必ずいずれかのチームに所属して活動しています。例えばコロナのストレス対策施術設計チームや物販チーム、家賃相談チーム、教育チームはZoomを使って社内教育カリキュラムを回したり、サマーキャンプチームはオンラインキャンプに変更して企画をするなど、それぞれのチーム単位で出来る事をするという感じですね。」

-普段のデスクワークというとどのような感じなのでしょう?
前⽥⽒「普段は全員がデスクワークを抱えているわけではないですが、 採用チームや教育チーム、SNSチーム等は⼀定して動いています。平⽇夜や⼟⽇が忙しいため、平日昼間の余裕のある時間で会議を行っています。」

COVID-19が与えた鍼灸の未来ロードマップ

-今回のCOVID-19を通じて、いわゆる美容鍼灸と一般鍼灸の違いって何かありましたか?
前⽥⽒「普段、CALISTAには体を癒したいというお客様が来られる⼀⽅、C by CALISTAは美容専門なので、リフトアップをご希望される方がいらっしゃいます。マツエクやネイルは空いているお店にお客様が集中していると聞いていましたが、 美容鍼のリフトアップに関しては、それほどでもなかった印象です。実際、C by CALISTAに来て頂いていた方々も、美容だけではなく、肩こりや疲れを感じて、ご来院されていた印象があります。」

-前田さんの視点で考える”今鍼灸業界全体が出来る事”はなんでしょうか?
前田氏「サロンでまさに話している事ですが”自律神経”と”生活習慣”この2つのキーワードは改めて重要なファクターであると考えています。サロンでいうと自律神経はCALISTA寄り、生活習慣はC by CALISTA寄りのお話しになるのかなと思います。
今って自律神経乱れまくってるじゃないですか。生活リズムの崩れや在宅勤務によるストレス、食生活の乱れなど。色々な方針の鍼灸師さんがいると思うので、専門でやっている人は専門でやればいいと思いますが、僕は自律神経を整えることは鍼灸師が出来る非常に強い強みではあると思うので重要性や今求められている事として考えていく事が重要だと考えています。
一方、美容鍼灸も肌のリフトアップ等、自律神経も深く関わる部分ではありますが、少し遠い部分があると思っていて、例えばリフトアップしたい人に自律神経整えましょうと言っても説明が必要になる。肌荒れしている人が多かったり、運動不足で代謝が落ちていたりする中で、そもそも鍼灸師って鍼灸(施術)した時だけの話ではないじゃないですか。今だからというか尚更、不安定な生活が世に広がる中で、規則正しい生活を送れるようにサポートしたり、その必要性を東洋医学的に説明していくというのは、世の中全体を健康にするうえで鍼灸師としての必要な役割ではないのかなと思っています。
こういった部分を業界として改めて強調していくのが重要なのではないでしょうか。」

-今のご指摘はまさに当たり前すぎて意識していない部分かもしれません。
鍼灸施術以外の面では何かありますか?
前田氏「DX※2ですね。」

※2,Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること。

Japan IT Market 2018 Top 10 Predictions: デジタルネイティブ企業への変革 – DX エコノミーにおいてイノベーションを飛躍的に拡大せよ, IDC Japan プレスリリース,2017年12月14日(出典)
経済産業省,デジタルトランスフォーメーションレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~,平成30年9月7日デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会より2020年5月29日閲覧・引用

-DXですか。具体的にはどういったことになりますでしょうか?
前田氏「鍼灸業界も絶対DXが必要だと思います。
今回の件を通してZoomが使えないとかそもそもWi-Fiがないとか様々な問題点に直面した方もいたかもしれません。これらが実務レベルに繋がっていくとするなら、顧客管理はデータベースで見なきゃいけないよとか、ECサイト(物販サイト)今だったら簡単に作れるのだから必要な人に届けなきゃいけないよとか…
デジタルが本当に強い時代になったので、苦手とか言ってる場合ではないですよね。」

-この2ヵ月間を振り返っていかがですか?
前田氏「僕自身は良かったなと思っていて、鍼灸院って(衛生的に)綺麗であると社会的に評価されているという会話を聞いたときに僕は誇りに感じました。ハロー効果ではあるかもしれないですが、最近の鍼灸院は掃除もしっかりする、消毒も徹底する、マスクや院によってはフェイスガードもしっかりする。これらを考えた時に(鍼灸師は)衛生面やお客様に対しての意識が強い集まりなのだと改めて感じました。お客様を大事にしているし、今でこそ!のような商売っ気溢れるよりかは、営業時間縮小し必要な人達だけにやってますよというような、グッとこらえる時にこらえて然るべき対応が出来ていたのかなと。
一方で、家にいてストレスを感じている人たちに対して私達が出来るサポートがもっとあったのではないかといのがこの2ヵ月間反省点ですかね。」

-お忙しい中ありがとうございました。
前田氏「ありがとうございました。」

改めて自分を見直す時間に

鍼灸業界全体を捉えた視点でのお話しは貴重な物であった。今回のCOVID-19を目前にして社会の構造は大きく変化する中で、働き方のお話しや、特にデジタルトランスフォーメーションのお話しについてはとても興味深かった。
直面した問題に柔軟に対応する姿勢、そもそも柔軟に対応できる形の組織、またそれらの対応後には転機と捉え更、なるクリエイティビティを生み出す前田さんの姿勢は、多くの鍼灸師が学ぶべきであろう。

お忙しい中お時間をとって頂いた前田社長に、改めてこの場で感謝を申し上げます。

インタビュー・編集よー(Twitter:@380yh
編集ぶーちゃん(Twitter:@buu_21

その他

NEXTAcutivate→について

鍼灸業界(Acupuncture)の次なるアクティベーションを目指すシリーズ連載。
様々な業界の諸問題に切り込んでいく。

NEXTAcutivate→シリーズ過去の連載はこちらから

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