NEXTAcutivate→第2回目は今回のCOVID-19が鍼灸業界にもたらす影響についてである。
今回の件について積極的に発言しており、また鍼灸業界全体に幅広く精通する川井大輔氏に、現状と今後の展開について取材をさせて頂いた。
※本記事は2020年4月4日時点での取材記事になります。また取材に関しては対面でなくビデオ通話を用いて行った。
- 中医学のデータも出てきているが、日本の鍼灸としてしっかり考えていく必要がある。
- COVID-19に対して、鍼灸師は間接的に関わっていく事が大切である。
- 改めて感染症に対する知識と理解を深めて今後に備えておく必要がある。
きっかけはTwitter
今回の取材をするきっかけとなったのがこの投稿である。
確かに開業鍼灸師にとっては気になる動向の一つである事に間違いはないだろう。
一方、勤務鍼灸師や副業鍼灸師はCOVID-19自体には興味のベクトルがありつつも、来院数等にまで気が回る人は少ないのではないだろうか。
そんなツイートをきっかけに取材申請をしたところ、快く受け入れて下さった。
川井 大輔(かわい だいすけ)
鍼灸師・マッサージ師
東洋鍼灸専門学校卒業、東京都鍼灸師会所属
Twitter:@shinq_c
COVID-19は鍼灸業界に大打撃を与えるか?
-よろしくお願い致します。
早速ですが、このツイートをしようと思ったきっかけはあるのでしょうか?
川井氏「日頃から業界に関して関心をもっている中で、今回の問題は鍼灸業界に大きく影響を与えるなと感じていました。その中で”何をすればいいのか”とか”どう向き合って行けば良いのか”を考えている中で、ひとまずは患者数がどう推移しているかを知りたかったのがきっかけです。」
-媒体としてTwitterを選んだ理由はありますか?
川井氏「本当であればGoogle Formsなどを用いて調べれば良かったのですが、ほかにこの分野で研究をしているような人の邪魔になってしまってはと思いTwitterとなりました。また(正式なデータとしては信憑性はさがりますが)気軽にアンケートを作成できるのも理由の一つです。」
-参考データの一つとして出せればというイメージですかね?
川井氏「そうですね。私自身はしっかり調べている人がいる前提で動いていたのでこのような形になりましたがどうやらいなさそうですよね。
調べるからにはしっかりと発表する責務があるとはいえ(調査活動をしている人が)いないのであれば、性別・地域から業態等の細かいところまで調べればよかったです。」
-実際、アンケートの結果は想像と比べてどうでしたか?
川井氏「2月の時点では思った以上に影響がないなと感じました。実際、変化なしが70%ぐらい、減ったというのが20%ぐらいだったので、一気に影響がでるなと予想していたのとは反していました。国民に危機感がまだなかったのかもしれませんね。
一方で3月と見比べると50%ぐらいが減ったと、30%は変化なしという事で、予想通りの結果となりました。一方で15%程度が増加したというのは意外な結果となりました。これはコロナウイルスにかかりたくない層に鍼灸治療が上手く機能したのではないかと推測しています。日頃の部分と宣伝の部分含めて大きく動いたのが3月という感じでしょうか。いずれにしろ方法次第では、必ず減るわけではないというのが見えたのではないかと思っています。」
-Facebookで投稿されていた「ある意味で戦略によっては現状でもコロナ不況の影響を受けずに済む可能性がある事も示されているように思えます。」この”戦略”の部分が、日頃の関係や宣伝等であり、重要な部分になってくるという事でしょうか?
川井氏「日頃からの患者さんの接し方であったりはもちろんですが、鍼灸の伝え方にも大きくあると思います。必ずしもポジティブな部分だけではなくて”鍼灸=免疫”というような構図を伝えたならば患者数は増加しそうですし、一方でエビデンスも十分でない中そのような構図を言わなければ減っていくのではないでしょうか。」
Twitterでアンケートを取ってみました。
川井大輔氏フェイスブック投稿より
2月に比べ3月は予想通り減少傾向でしたが、増加したが増えたのが興味深い。
患者さんの運動不足による慢性疾患の悪化、不安による体調不良等で、信頼のある鍼灸院に来院している可能性があるのかもしれませんね。
ある意味で戦略によっては現状でもコロナ不況の影響を受けずに済む可能性がある事も示されているように思えます。
-今回のCOVID-19が、鍼灸業界に対して患者数以外の部分で与える影響はどのようにお考えですか?
川井氏「患者数が減るということは鍼灸師の経営状況に大きく影響を与えますよね。一般の自営業種と一緒でランニングコストもかかるわけですし、きつい部分があるのではないかと。一方で一人で開業していたり自宅で開業していたりと、他の営業種と比べて比較的体力は持つのではないかと。しかしながら人を雇っていたり大規模経営をしているところはダメージを負ってしまうのは必然でしょうか。
現段階では鍼灸院の営業は制限されているわけではないですし、患者さんを確保する努力は必要だとは思うのですが、衛生面の問題で感染者を増加させてしまう可能性も考えられる。
積極的にコロナウイルスと謳ってしまうと法律で引っかかる。仮に免疫力を〜という文言にしたとしても、ある意味不安ビジネスの形となってしまうのではないかなと。そうなった際、後々大丈夫かなと心配しています。
最近だとSNS上で”中国の中医学でこのような結果が出たよ”というのが流れてきますが、この時点でそれが本当に大丈夫ですか?と思う部分もある。中国のデータを信用する有識者や国民はどれぐらいいるのだろうか。また日本の鍼灸師がその部分のみを切り取って”このツボがいいから!”となってしまったら中国の鍼灸=日本の鍼灸というような形になってしまい、後々大きなダメージにならないかなとも懸念しています。」
-そうなってしまっては良くないと?
川井氏「日本鍼灸は日本鍼灸としてあるのにも関わらず、某鍼灸学会も取り扱ったりしている。(世界的にも中国が出している人データの信頼性に懐疑があるのにも関わらず)そこのデータは信じるんだという感じですね。いつのまにか鍼灸治療が目的となってしまっているのは少し怖いなと思いました。
また、アジア人への偏見が出てきている。中でも中国人に対するその怒りや不安に対して振り下ろしたいものがある。…いわゆるヘイトですよね本来は良くないものなんですけど。それらを踏まえるとどうしても中国に向かってしまうのは避けられないかもしれない。そうなった際に標的の一つとして漢方や中国針…いわゆる鍼灸がいい評判でいられるかどうかは分からないわけです。
コロナウイルスが収束した時にこそ風評被害みたいなものが起きないかと心配しているので、そうなった際に中国の文献を基してどうのこうの言ってしまっていると、あとで思いっきりツケを払う事になるのではないかと思います。
“日本の鍼灸は中国の鍼灸と繋がってるじゃん”と言われてはどうしようもできない。中国の文献を日本語訳しているだけなので客観的に乗せただけという理由は通りますがもう少し慎重になるべきではないかと。」
-旧来より中国文化の一つとして中医学が培われ認知がある背景があった上で併用してみた結果が、と捉えるべきという事でしょうか?
川井氏「ある意味広告戦略ですよね。そこに全面的に乗ってしまうのはよくないですよね。」
-医療の現状を見てもそれどころではないとは思いますが本来であれば、日本は日本としてデータや臨床研究をするべきだと?
川井氏「その通りですね。なかなか機会に恵まれないとは思いますし、鍼灸でコロナウイルス が〜と言ってしまっては国内でも問題外と言われかねない。だからこそ無理に結びつけるべきではないし、淡々と(日々の)治療を続ける。またその先の事を考えて外出が禁止になって運動不足や、QOLの低下が考えられる。その場所で役立てるような形を考えるべきではないかと。」
-鍼灸師は間接的に関わる方が重要なのではないかという事でしょうか?
川井氏「体操であったり、あとは鍼灸師だからこその”ツボ”であったりとか。セルフケアの推奨のような情報発信が今私たちに求められている事であり、健全な形なのではないかと考えています。」
-より実務の部分では影響はいかがでしょうか?
川井氏「往療のマッサージの人達が施設への訪問中止というのが印象深いですよね。また療養費に関しては同意書が必要ですが同意の延長が出ていますね。一方でこの環境下でも厚生労働省が鍼灸をしてもいいよというお墨付きがついたとも考えられますよね。もしダメなのであればそのような見解は出さないですよね。」
-今回のCOVID-19に対して(一部)鍼灸業界の各団体が一報という形で情報を発信していますが、これについては広い目で見てどうお考えでしょうか?
川井氏「日本鍼灸師会は院内に掲示するポスターを配布したりはしていますよね。
また私たちは他のサービス業と比べて医療従事者であるわけですよね。衛生面の管理に関しては一段と敏感でかつその概念は強いですよね。我々は医療なのか医療じゃないのかという概念も入ってくる。金融や食品や鉄道などインフラの中の医療の一つに鍼灸も含まれているなかでどうなるのかは難しいですよね。保証があるかないかも大きな問題になるかとは思います。」
-現段階で医療インフラとしての鍼灸の意味はどこにあるとお考えでしょうか?
川井氏「いわゆる整形外科領域ですよね。やらないと辛いというような人達、いわゆる慢性疾患を抱える人達のケアする事に意味があるのではないでしょうか。鍼灸院は多くでも1時間に1~2人多くて4~5人ぐらいの少人数であり、整形外科のように1時間に20~30人溢れかえるような環境ではないという面では意味があるのではないでしょうか。そういう人達にとっても救いになっていると思います。
慢性疾患に対する緩和を担うことに意味があるかと思います。もちろん運動不足やQOLに関してもアプローチできますし、病院へ行かないでというような形で促すこともできますね。」
-私達鍼灸師はこのCOVID-19を目の当たりにしてどのような対応をとるべきでしょうか?
川井氏「これはただの予測でしかないのですが、年内の終息は難しい。ワクチンも出来ないなかで頑張ってみんなで耐えようという中での、非常事態宣言等による外出自粛などのソーシャルディスタンスの形をとっていくも、一時的なものであるのは間違いない。
その中で日本は水害に気を付けないといけない。私もまだ調べ切れていないのですが”どれだけの人が避難して同じ場所に集まったのか”を調べる必要がある。避難であれど終息していない中で同じ場所に集まるような環境はとてもまずいことではないでしょうか。また洪水では下水も溢れ出したりと糞便感染に繋がるリスクが考えられる。その時には医師や看護師の医療従事者がどんどん足りなくなってくるでしょう。そうなったときには他のコメディカルの動員はもちろん学徒動員まで考えられるような事態に直面する可能性が考えられる。そうなった際に希望者とはいえども鍼灸師もコメディカルである上では避けられない。仮に現場に駆り出された際には軽症者の対応が主になる可能性が高い。その場で即席の感染症対策法のレクチャーや指導があるとはいえどうまくはいかない。逆に鍼灸師が感染して…というような残念な結果になる可能性もある。そうなる前に看護師の手伝いや、持ち合わせているのと同じレベルの知識を身に着けておくことが必要なのではないでしょうか。それは結果的に患者さんだけではなく日本人、ひいては世界全体を救うことになりますよね。」
個々が岐路に立っている
忙しい中、長時間にわたり取材させて頂いた。
やはり私達鍼灸師は直接的にこのCOVID-19、ひいてはその他感染症に対して根本に対して出来る事は他の医療と比べた際に出来る事は少ない。
一方で、打つ手立てがない中優先すべき順序を踏まえた上で試してみる価値があるというのも事実である。より広い視点でこの”COVID-19″という直面している問題を捉えた時に、間接的な医療リソースとして鍼灸が医療業界を支えることが出来るのであれば、それは立派な医療の一環であると言えるのではないだろうか。
※一部文章内の末尾を統一。(4月10日)
その他
NEXTAcutivate→について
鍼灸業界(Acupuncture)の次なるアクティベーションを目指すシリーズ連載。
様々な業界の諸問題に切り込んでいく。
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